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T's STUDIO:FROM USA

FROM USA〜アメリカ在住トレーナーからアスレティック・トレーナー最新情報をお届けします
08年リコーMLB開幕戦メディカルリエゾンサポート報告

大木 学ATC Boston Redsox編
第2回「ATCの仕事内容について」

写真 今回のMLB開幕戦ツアー日程は、3月20日深夜に羽田空港到着、6日間で4試合、最終日26日は試合終了直後に羽田空港からアメリカ・LAへ出発するという過密日程でした。Bostonは、この来日の前後にもLA、Oakland、Torontoとアメリカ国内外を移動し、4月6日までホームに帰れない長い遠征でした。この日程の中で、RedSoxのメディカル・チームの仕事ぶりを間近に見て、選手のコンディションをどのように管理していたか観察することができました。

「RedSoxがいかに日本での開幕戦を乗り切るか?」時差や睡眠について選手の体調管理も、アメリカでもニュースになっていました。チームDrのDr. Ronan(内科医:今回のツアーにも参加)から、機内搭乗後数時間の睡眠を取った後はできるだけ起きて、到着後現地の時間に合わせて睡眠を取りなさいという指示が出ていたようです。帰国の日にも、選手はもちろん選手の家族にも睡眠の取り方のアドバイスが配布されていました。このような徹底のためか、ツアー中にコンディションを崩した選手・スタッフはいなかったようです。野球の競技特性上、大きな外傷はコンタクト・スポーツに比べ少ないのですが、小さな体調の変化が試合に大きく影響する競技だけに、チーム側も繊細に選手に対応していると感じました。

写真 ロッカールームで選手を見てみると、ベテラン選手ほど体には人一倍の注意をしていると感じました。キャプテンのジェイソン・バリテック選手(捕手・36歳)は試合前後には必ずトレーナー室に来て、ストレッチ・マッサージ・アイスといったルーティーンを行っていました。長くMLBでプレーしてきた経験値でしょう。その他にも、誰に言われるまでもなく自分のコンディショニング・ルーティーンをトレーナー室で行う選手が常に7・8人はいました。選手がセルフ・コンディショニングの重要性を理解し、自主的に行動していました。実際に手を掛けてストレッチやマッサージを行うことは必要ですが、自発的にケアをする選手を育成することがATCの仕事だと実感しました。

以上、今回、MLB開幕ツアー中のBoston側のメディカル・チーム業務はごく一部でした。普段は、日本の大学ラグビーのトレーナー業務に関わっているため、BostonのATCの業務を見た時はその相違に様々な感情が生まれました。ただ、観察している内に、今、私が現場で実践できる業務改善点が明確になり、規模の差でどうにもできない部分は将来の目標となりました。選手を大切にするという原点の上に、Bostonのメディカル体制を観察し、ATCのストレッチや傷害評価に対する真摯な姿勢を見ることで、いい刺激になりました。まったく同じ現場はありません。それぞれの現場で優れた点や改善すべき点があり、今ある現状の中で最大限できることを精一杯やるしかないと、最初感じた様々な感情が徐々に正の方向へ転じて来ています。

永井 宏和ATC Oakland Athletics編
第2回「ATCの仕事内容について」

写真 続きまして、Oakland Athleticsです。
Oakland AthleticsのATCは三名です。そのうち一人はメディカルサービス・コーディネーターです。彼はもう20年以上Oakland Athleticsで働いており、現在アスレティックトレーナー活動はほとんどしておらず、ヘッドトレーナーとアシスタントトレーナーに業務は任せています。彼は試合中、ゆったりと本を読み、「もう私の出番はない、彼ら、若い人達の出番だ」と言っていました。

彼の絶大の信頼を受けるOakland Athleticsの残りのATCの活動を観察しての印象はあまり多くを語らず、選手一人一人が今まで築いてきたスタイルで試合に向け準備していくのを手伝っているという印象を受けました。しかし、彼らの行動や発言からは見逃してはいけない物は絶対に見逃さない、という緊張感を帯同中に感じました。

チームの中で特にピッチャーは準備の仕方に個々のスタイルがあり試合と練習の前後は、それぞれ決められたインナーマッスルのトレーニングをしていました。 その時ATCは必要な事を手伝うという感じで、とくに何かをしなさいというような事は言わず、自主性に任せていました。しかしケアが必要な選手には積極的かつ自主性を促す話し方で色々と選手やり取りをしていました。試合と練習のストレッチは非常に入念におこなっていました。特に、利き腕のストレッチにはフリクションマッサージ(※1)を応用したストレッチを非常におこなっていました。色々と物理療法の高額な機械を数種類持っているチームではありますが、「極力ハンズオンの治療(※2)を心がけている」と言っていました。機械に頼って治療を「ただ」やった、という感じにしたくないという考えからです。そしてもう一つ重要なのは「Luck(運)」だといっていました。日本で言う、「縁かつぎ」の様な物ではないでしょうか。

試合、練習前のマッサージを受ける選手もよく目にしました。ATCとしては、今年からフルタイムでマッサージ担当がスタッフに増えたが、選手達にあまりマッサージに頼り切ってほしくないという思いで、現在状況を見ているという事でした。現在は上手く機能しており問題が無いと言っていました。

色々なトレーナーがいますが、Oakland AthleticsのATCは、非常に選手達の自主性に任せているように思いました。ATCの判断でこの選手にはこれが必要だ、という状況にならない限りは口を出さず、なおかつ選手達のベストの状態を作る環境を用意しているように思えました。

※1 フリクションマッサージ:筋、腱に対し、繊維方向、もしくは垂直方向に指等での、摩擦を伴う強めのマッサージ
※2 ハンズオンの治療:徒手を実際に使った治療(フリクションマッサージ、PNF等)

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