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T's STUDIO:インタビュー

第4回:大木 学 帝京大学ラグビー部ヘッドアスレティックトレーナー

写真 ■経歴
1972年生まれ
1996年 早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒
2000年 Western Michigan University修士課程修了(MA)
McLaren Sports Medicine Clinic、Flashing High school(米国)トレーナー
いすゞ自動車ギガキャッツ・バスケットボール部アシスタント・トレーナー
2002年よりトライ・ワークス所属。
帝京大学ラグビー部ヘッドアスレティック・トレーナー、現在に至る
■資格
NATA-ATC、第1種保健体育教員免許


今回は帝京大学ラグビー部ヘッドアスレティック・トレーナーの大木 学トレーナーにお話を聞きました。

アスレティックトレーナーになったきっかけを教えてください。

高校2年の春に野球で肩を痛め(関節包損傷)、手術を受けました。その際に(今やお名前も忘れてしまいましたが)お世話になった病院のDr やPTの方々に接する中で、スポーツ医学や「トレーナー」に興味を持ち始めたのがきっかけでした。

学生トレーナー時の思い出は何ですか?

Western Michigan Universityでの学生トレーナー時代に、一人で試合や合宿のためにアメリカ国内をチームと移動したことが一番の思い出です。学生トレーナーは、学期ごとに違う競技のチームに割り当てられます。野球部に割り当てられた時は、バスに7時間乗ってオハイオ州で試合をして帰って来たり、スプリングキャンプでフロリダ州デイトナに行ったりと、各地を移動して様々な経験をしました。
今では学生トレーナーが一人でチームに帯同して遠征に出ることはないようですが、当時は皆が経験することでした。初めて一人で遠征に出された時は、アシスタント・トレーナーに心配されて送り出されたことを覚えています。

写真 Emergency plan「緊急時対応」 の重要性をどうお考えでしょうか?

米国で学生トレーナーとして勉強していた際に最も強調して教育されたことは、Emergency Plan「緊急時対応」のことでした。アスレチック・トレーナーの最も重要な役割として、緊急時に指揮を執ることです。上記で述べたように、チームに帯同していればアウェーでの試合が必ずあります。アウェーの際、最も責任を課せられ頼られた部分は「緊急時対応」でした。
遠征先でまずしたことは、相手側のATCや学生トレーナーに緊急連絡先とその経路を互いに確認し、緊急時にどうするかを自分の頭の中でシミュレーションすることでした。これは、今もアウェーの際には現地に着けば体が反応します。また、今回MLB開幕戦シリーズ(Boston RedSox vs Oakland Athletics)でメディカル・リエゾンとしてRedSox側をサポートさせていただいた際にも、その重要性を実感しました。それは、RedSoxのチームDrとの会話が、「東京ドームで緊急車両は常時待機しているのか」、「日本側のDrは試合時にどこかにいるのか」ということだったのです。
Western Michigan Universityで初めて一人で遠征を任された時も、現地での「緊急時対応」の確認だけは絶対に怠るなということでした。アシスタント・トレーナーが最も心配していたことだったのでしょう。

on-field で気をつけていることは何ですか?

けがの予防です。どんなけがも、本人にもチームにも大きな損失です。 プレー中の傷害発生を予防するために可能なことは何か?ということを常に考えています。具体的にOn-Fieldでできる最もシンプルで重要なことは、水分補給とプレー周辺の障害物の管理です。水分補給は集中力・パフォーマンスを維持させるために必要不可欠です。特にラグビーなどの激しいコンタクトがある競技では、集中力とパフォーマンス低下はすぐにけがに直結します。障害物は説明するまでもないでしょう。
これまで起きたけがも不可抗力で済まさず、なぜけがが起こったのか?どうしたらそのけがが起きなかっただろうか?という問いを何回も重ねています。これまで帝京大学ラグビー部で蓄積してきた7年間の傷害記録を基に、練習や試合中のけが予防の準備を怠らないように心がけています。

写真 評価をする際に気をつけていることは何ですか?

正確な判断をすることです。On-Fieldで正確な評価をすることは非常に困難です。けが直後の選手は冷静でないことが多いです。プレー中ということもあり興奮状態であるため言葉や反応が通常の状態ではなく、評価をする側がその影響を受けます。また、周囲のその他の人間(チームメイト、相手選手、コーチ、観客等)からのプレッシャーもあります。
正確な判断を狂わす要因としてトレーナー自身の先入観もあります。フルタイムで帯同するトレーナーの強みとして、普段の選手を知っていることがあります。ただ、普段の様子を知っているだけに、例えば痛みに強い選手が何か外傷を負った時に、選手の「大丈夫。行ける。」という言葉に、楽観的な判断をしてしまうことがあります。
On-Fieldでの評価は、常に人の目や時間的なプレッシャーがかかります。ただ、プレッシャーがある中、「自分は今冷静ではない。今は選手も自分も普段とは違う。」と敢えて意識し落ち着かせ、先入観を排除してけがに接するようにしています。

大学スポーツに携わるトレーナーとしての楽しさと厳しさはどのようなところですか?

選手の成長が最も著しい大学の4年間という時期に関われる責任の重さとその達成感が混在するところが一番の魅力です。1年生で入学した時はほとんど高校生ですが、卒業する時は大きく変化しています。でも社会人選手とはまったく違います。この時期の選手の変化に少しでも関わることができれば、といつも思っています。
どんな年齢と関わる時も同じですが、その年齢に合った関わり方、選手やチームの特徴に合った指導の仕方・内容があります。また、大学スポーツで優勝するには、選手を取り巻く環境はプロと同じでない一方、非常に高度なパフォーマンスが求められます。様々な要素を考慮して大学生に合った方法をコーチング・スタッフと試行錯誤し、うまくチームや選手に合致したときはやはりうれしいです。

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