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T's STUDIO:コラム

T's STUDIO

今回は、トライ・ワークスの代表取締役であり、現在15人制及び7人制ラグビー日本代表トレーナーを勤める木村通宏トレーナーに7人制ラグビー代表の帯同についてお話を聞きました。

1:常勤のチームと代表のチーム帯同の違いはありますか?

年間契約をして帯同しているチームでは、外傷に対するアプローチを時間に余裕を持って実行することができます。数週間単位の代表チーム帯同では、怪我をした選手がそのまま帯同を続けられるか、帯同期間中に復帰出来るか、あるいはすぐに帰国してもらいバックアップの選手を呼ぶか、判断を迫られることがあります。特に、時差がある国に遠征中で、大会開催直前に怪我が発生した時は大変でした。スペイン遠征の際には、遠征直前に怪我により選手の人数が1名減り、現地に入り大会直前に怪我人が複数出て、予備の選手を日本から徴集する時間も無く、リザーブにコーチが入ったこともありました。
代表チームに帯同時は、遠征期間が短いので、長期的なアプローチではなく、目の前にある痛みを和らげるようなアプローチで患部に治療をします。再発予防や、怪我や痛みの原因が明らかで補助的なトレーニングを必要とする場合などは、所属先のメディカルスタッフと連携を取りながらアドバイスをします。
代表チームでは、遠征前のコンディションの把握、遠征中のコンディションの報告など、所属先チームのメディカルスタッフへの連絡は特に気を遣います。選手によっては、大学生でトレーナーが居ないチームであったりするので、集合してからコンディションをチェックする場合もあります。毎年3月末の香港セブンズでは、帰国する時には、社会人チームに新入社員として入社する場合もありますので、大会中のコンディションは、就職先のメディカルスタッフへ伝えます。

2:セブンズと15人制では試合中のトレーナー業務に違いはありますか?

T's STUDIO写真 現状では、セブンズ代表にドクターの帯同がないため、トレーナー(特にメディカル)関係全般を1人で責任を持って運営しなければならず重責を担っています。日本のドクターに指示を仰いだり、大会運営本部のドクターやメディカルスタッフを上手く使って対応します。セブンズ代表のトレーナーには英語力が不可欠です。
2004年に初めてセブンズ代表に帯同した時は、フィットネスコーチの帯同も無く、ウォームアップやクールダウンも業務の1つでした。2年ほど前から、フィットネスコーチが1名帯同するようになり、遠征中にウェイトトレーニングの時間が設けられたり、ウォームアップもフィットネスコーチの担当となりました。
セブンズは15人制と同じ広さのフィールドを使ってラグビーをプレーしますが、1試合後の身体へのダメージや疲労度は、セブンズと15人制では大きく違います。15人制は1試合40分ハーフで、1週間に1試合の割合で行われます。15人制ではコンタクトする機会が多く、打撲など身体のダメージ、疲労度は相当なものです。試合が終わった後に体重が6キロも減る選手がいたりします。したがって、次の試合に向けて、身体を十分に回復させるためには時間が必要です。
T's STUDIO写真 セブンズの試合時間は7分ハーフとはいえ、多い時に1日3試合、大会期間は2日〜3日連続で行われるので、特に下半身の疲労度はかなりのものです。大会期間中の試合の間の選手の過ごし方、翌日の試合に向けての前日のコンディション調整、夜の治療のコントロールなどに気を遣います。
セブンズ代表は選手12人〜15人に対してトレーナー1人、15人制代表は30人〜40人にトレーナー3人の帯同です。15人制では物理療法の器械での患部に対する治療、コンディション調整のマッサージなどを、上手く交通整理しながら、選手の満足度と治療効果を上げることに神経を使います。夜のケアの時間だけでは見切れない選手は、午前中が練習オフの日や、完全オフの日の半日などを使ってケアの時間に当てるので、トレーナーは年中無休です。
セブンズ代表も15人制代表もフィットネスコーチと上手くコミュニケーションを取り、朝食時の体調・体重チェックなどの情報を共有し、また、選手のコンディションに関しては、監督・コーチスタッフとミーティングを定期的に行う事でスタッフ間での選手の状況を共有するようにしています。

3:試合中はどのようなことに気をつけていますか?

T's STUDIO写真 15人制の試合では、メディカル1名はバックスタンド側を自由に動けますが、その他のスタッフはメインスタンド側にあるコントロールエリアで待機します。メディカルビブス2枚をドクターとトレーナーで使用し、ウォーターボーイビブス2枚をコーチ1名と他のトレーナーで使用します。メディカルビブスを着用していればプレーが続行中でもプレーの妨げにならないようにフィールドに入る事が出来ます。
セブンズでは動ける範囲が試合中ではベンチ周囲に限定されているので、トライ後の水分補給時に素早く選手とコミュニケーションを取りコンディションをチェックしなければなりません。ビブスは3枚用意されていますが、トレーナー以外はリザーブの選手2名にウォーターボーイを兼任してもらいます。レフリーやマッチオフィシャルとコミュニケーションを取りながら、試合の妨げにならないようにするため、水入れは常に全力疾走です。
15人制でもセブンズでも同じですが、ボールの動きを追わず、コンタクトの瞬間、密集から起き上がってこない選手がいないか、頭部打撲後に動きのおかしい選手がいないかなど、広い視野で選手全体を観察します。

4:海外遠征が多いため、外国チームとの対戦が多いと思いますが、外国チームのトレーナー業務で気づくことはありますか?

T's STUDIO写真 セブンズ代表のチームでは、年間を通じてセブンズサーキットを回っている強豪国のスコットランドやサモアのチームなど、女性のトレーナーも多く見られます。治療というかコンディショニングはオイルを使って擦るオイルマッサージを良く見受けます。日本のように鍼を打っているチームは他に無く、大会中にロッカールームで治療をしていると、逆に「それは何をしているのか?」と質問を受けることもあります。海外ではトレーナーをフィジオセラピストという名前で呼ぶようで、イングランドを中心としたヨーロッパや、ラグビーが盛んな南半球の国々では、フィジオセラピストがチームに帯同しているようです。これは理学療法士とアスレティックトレーナーの中間のような資格だと思います。テーピングは、日本が種類もテクニックも豊富のようです。キネシオテープは香港セブンズでは2006年に始めて大会運営本部のテーピングに加えられました。巻き方(正しい使い方)を知っている人は居なかったので、私が大まかに紹介しました。チュニジアチームのドクターが「キネシオテープを買いたいがどこで買えますか?」と名刺を渡されたこともありました。今後ヨーロッパにも広まっていくのではないでしょうか。

5:海外遠征などで何かハプニングはありましたか?その際、どのような対応をしましたか?

T's STUDIO写真 海外遠征にハプニングは付き物です。
飛行機にチェックインした荷物が行方不明になることも多いので、行きも、帰りも荷物の個数や種類はしっかりと数えるようにしています。セブンズ代表では、選手・スタッフに個人の荷物+チームの荷物を1つ担当してもらい、チェックインし、管理します。スペインに遠征した時は、行きのアムステルダムでの乗り継ぎにあまり時間が無く、駆け足で飛行機には乗れましたが、荷物が一切届かず、翌朝の便で届きました。当然、到着した日の練習は行うことができず、移動に着用した服装で一夜を過ごしました。それ以来、手荷物には必ず着替えを一式入れるようにしています。逆に日本への帰国便で、1人選手が乗り継ぎに乗り遅れ、団体荷物としてチェックインしていた荷物も全部降ろされてしまい、手ぶらで日本に帰って来たこともありました。
また、日本のように時間にきちっとした国はなかなか少なく、練習へ向かうバスが遅れたり、練習グランドの予約が取れていなかったり、リエゾンが二日酔いで現れなかったり、様々なハプニングが起きます。
ケニアでは練習グランドへ向かうバスがなかなか来ないので、リエゾンにバスがいつ来るのか聞いたところ、「もうすぐ来る」との返事。「もうすぐってどれくらい?」と聞くと、「5分のときもあれば30分のときもある。ハクナマタタ!」と言われました。これはディズニーのライオンキングの歌にもありますが、スワヒリ語で「どうにかなるさ」という意味です。なにはともあれ、慌てずに臨機応変に対応することがセブンズ代表の遠征では基本です。


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