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T's STUDIO:インタビュー

第12回:上村友希 トライ・ワークス所属アスレティック・トレーナー
上智大学アメリカンフットボール部アスレティック・トレーナー

■経歴
地元公立高校卒業後、渡米
2012年Oregon State University, Exercise & Sports Science, Athletic Training卒業
2012-13年 Academy of Art Universityアスレティックトレーナー
2013-14年 日本の大学のトレーニング施設にてアスレティックトレーナー
2014年 大学院進学のため再渡米
2016年 University of Utah, College of Health, Sports Medicine 卒業
帰国後、関西で2年半ほど活動した後に、2019年春 トライ・ワークス所属
■資格
NATABOC-ATC(全米公認アスレティックトレーナー)
NASM-PES (NASM公認パフォーマンスエンハンスメント・スペシャリスト)


アスレティック・トレーナーになったきっかけを教えてください。

ATCの多くの方が、アスレティックトレーナー(以下略AT)になりたくて渡米されたと思うのですが、私の場合は受験勉強をしたくないという不純な動機で留学を決意しました(笑)。留学先の第一希望としてOSU(Oregon State University)を考えていたのですが、その時期に磯有里子さん“NFL初の女性ATC、しかもそれが日本人“というような内容の特集がテレビで放送されており、しかも磯さんがOSUの卒業生であるということを知り、何かビビッときたのですかね。そこから職業に関して調べ、面白そう!勉強してみよう!と思い学部を決めました。実際に授業や実習を行うなかで自分に合っているように感じ、更にやりたいなと思うようになりました。

アメリカでの学生トレーナー時代の思い出は何ですか? どのような活動をしていましたか?

ニューエラボウル試合後にて(2011年)

母校の大学のATプログラムはしっかりと実習が組み込まれていたので、授業期間中は膨大な実習時間と学校の授業、帰宅後の復習とアスレティックトレーニング漬けの日々を過ごしていました。これといって特別なことはしていませんでしたが、私は机に向かって勉強することが苦手で実践で学ぶタイプだったので、配属先のスポーツ以外もお手伝いさせてもらって、とにかく色々なスポーツやATの方と接し、授業の内容を実習で繋げるようにしたり、経験できることはとにかくやってみようというスタンスで、大変ではありましたが毎日が思い出で充実していました。

夏休み中のインターンはほとんどしませんでしたが、唯一したといえば一時帰国中に2年連続でお手伝いしたニューエラボウルですね。関西の大学のアメフトのオールスターゲームで、アメリカの選ばれた大学2校からそれぞれコーチ2名と選手6名を招待し練習・試合を行います。1週間の帯同期間は逆留学みたいな感じで、日本の現場事情など色々学べたりいい思い出です。特に、2年目に来たアメリカの大学の1校は私の母校OSUだったので、とてもテンションがあがりました。

アメリカンフットボールやラグビーのようなコリジョンスポーツに携わる中で、特に気をつけていることはありますか?

コリジョンスポーツに関わらずかもしれませんが、どんな練習メニューであっても何か大きな怪我が起こるかもしれないということは頭の片隅に常においています。それと、多くのアスリートがプレー中は熱くなりやすく、受傷時には痛みなどでパニックになりがちであるので、とにかく自分自身が冷静な判断・対応できるよう心がけています。

また、コリジョンスポーツでは頻繁におきやすい脳震盪に関してATとして力を入れたいなと思っています。ATや医療従事者だけが知識をつけるのではなく、指導者やアスリートだったり保護者の方々が知識を持つことが、とても大切だと考えています。シーズンイン時に講習会をしたり、受傷時には一度説明した内容でも、どういう対応をしていくべきなのか細かくわかりやすく再度説明するようにしています。

チームの中でトレーナーとして特に気をつけていることはありますか?

高校のアメフト試合会場でサイドラインにて学生トレーナーと雑談中(2014年)

アスリートはもちろんですが、コーチ陣・学校側スタッフ・未成年であれば保護者の方々、などチームに関わっている人とのコミュニケーションです。学生トレーナー時代に、あるATに「アスリートへのアプローチだけでなく、その周りの関係する人たちとどのようにコミュニケーションをとるのか、それを身につけることが一番大変で大事」と言われたことは身をもって感じますし、気をつけていますね。

その他もたくさんあるのですが、ATは怪我の対処やリハビリなど痛みへの対処を行うのでネガティブの意識を持っている方がいるのですが、そうでないと思ってもらえるようなポジティブな環境づくりも大切にしています。例えば、怪我によって練習ができないとアスリートは自分を格下げしてしまったりするのですが、常にチームの一員であること、リハビリによって怪我前より強くなれることなど、少しでもモチベーション維持ができるようなアプローチを心がけています。また、“痛みではないけど違和感があるという相談をする→練習していけないと言われる→ポジション争いから脱落になるかもしれない”などのATに対するネガティブな考え方を選手が持たないように、“気になることがあるときに気軽に相談する→早い対処ができ障害予防になる→練習継続できる”ということを感じてもらえるよう接するようにしています。

アメリカと日本のアスレティックトレーナーの違いはありますか?

日本だとATであってもSCや治療家など複数のポジションを兼務する必要がある現場が多く、それによりATとしてのできることが限られてしまうことがあると感じます。一方で、アメリカではATは1つのポジションとしてしっかり確立されているので、SCや治療家の方とコラボしながら仕事し、よりATの専門分野に時間を費やせることができる現場が多いと思います。

そういったポジション・現場のあり方、保険制度やスポーツビジネスの考え方、文化によってアプローチの仕方が違うと感じています。日本は徒手療法やテーピングなどを主に用いて、受傷後のアプローチが中心になっているのではないかと感じます。アメリカはPrehab(障害予防エクササイズ)やリハビリも再発防止にフォーカスするなど受傷予防のアプローチが多い気がします。どちらが良いというわけではなく、それぞれの文化にあった“アスレティックトレーナー”であり、アメリカと日本とでは違う定義であるのではないかと感じます。

日本のスポーツ界やアスレティックトレーナーの位置づけがどのようになっていけばよいと感じますか?

サッカートーナメントでのFirst Aidの仕事、救護テント(2015年)

仕事内容は様々ありますが、アスレティックトレーナーが共通して必ず持っている要素として“スポーツ現場での緊急時の対応を熟知・訓練し、アスリートの命を守ること”が1つあると思います。

アメリカでは“アスレティックトレーナー”という仕事が、テーピングやマッサージをするだけでなく、リハビリや傷害予防へのアプローチを行い、試合時にアスリートが倒れたら一番にかけつける、アスリートの命を守る存在ということが一般的に知られていて、プロアマ・年代に関わらずスポーツ現場の安全管理が日本と比べると充実されていると思います。

日本だと“アスレティックトレーナー”ですというと、「何それ?トレーニング指導してんの?」みたいな反応がほとんどですし、スポーツ指導者の方でも“テーピングする人”や“トレーニング指導する人”のように実際のATの仕事が何なのか知らない方もまだ多くいらっしゃいます。金銭的問題もありますが、学生スポーツだと特に指導者が中心になって安全管理をおこなっているところが多いので、専門知識のあるATが中心になってより安全なスポーツ現場を目指すような環境・マインドが整えばいいなと思います。

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