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T's STUDIO:FROM USA

FROM USA〜アメリカ在住トレーナーからアスレティック・トレーナー最新情報をお届けします

上松大輔 MS,ATC

新潟県出身。早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒後、1999年9月に渡米。University of Pittsburghにて学士、ATC取得。Ohio Universityにて修士号取得。
現在はBrigham Young Universityにて野球部の担当である。
※MS:大学院修士課程修了
※ATC:全米アスレティック・トレーナーズ協会認定アスレティック・トレーナー

米国のアスレティック・トレーニング教育は大学学部の制度改革の終焉を迎え、さらなる教育制度改革として大学院への教育と話題を移しつつある。前回に引き続きブリンガムヤング大学の上松大輔氏に大学院レベルのアスレティック・トレーニング教育について語っていただく。

アスレティック・トレーナー教育制度の今後

NATAはインターンシップ校とプログラム認定校という資格取得のために複数の方法があるというユニークな教育・資格認定制度を70年代に立ち上げて以来維持してきました。従来のインターンシップ校は、アスレティック・トレーニングにおいて基本となる11科目程度(解剖学、生理学etc)の履修と、ATC監督下での現場実習1800時間を履修する主に現場実習に重きを置いたものです。一方、プログラム認定校はNATAによるプログラムの教育内容に対する審査を受けており、学科部門に重きをおいた教育課程を提供しています。そのような中、プログラム認定校卒業生が筆記、実技、シュミレーションからなるNATA BOCの認定試験3部門すべてにおいてインターンシップ校卒業生の成績を上回っているという結果や、ATCの準医療従事資格化、医療界に施行された様々な法律へ対応する形で、NATAは90年代に入り、インターンシップ校・プログラム認定校の2本立ての教育システムを廃止し、2004年をもってプログラム認定校のみに変更、そして全てをCAHEPP認定プログラム校*としました。
*準医療従事職教育認定委員 Commission on Accreditation of Allied Health Education Program 全米の準医療従事職教育プログラムの認定を行う公的機関

育システムの改革が及ぼした現場の大きな変化は、学生トレーナーの現場実習におけるATCの「直接的な指導・監督」(Direct Supervision)がより厳密に適応されるようになったことです。従来はATCが現場に立会い、監督せずとも、学生トレーナーは自らの判断のもとで様々な処置を行ってきましたが、それらの行為がアスレティック・トレーニングサービスの対象者(=アスリート)の利益に反する恐れがあること、また学生トレーナーの現場教育の質が保障されない可能性があるために、改善が図られました。また、以前の制度下では、学生が労働力としてみなされる状況が少なからずあったという反省点もあり、学生、現場の指導教官、現場環境という臨床教育現場の3要素(Clinical Education Triad)、特に指導教官の責任が、より明確に定義されるようになりました。具体的には学生トレーナーの労働力としての役割を減少させ、臨床教育の意識が学生および指導するATCへ徹底されています。また、アスレティック・トレーニングサービスが提供される場には必ずATCが立ち会うことが求められ、以前であれば遠征などに学生だけで帯同することが頻繁にありましたが、現行制度下ではATCが帯同しない場合、学生トレーナーは基本的な応急処置以外のサービスは提供してはいけないことになっています。

れらの教育制度改革は他の多くの医療職が経験したように、師匠となるATCより学生が学ぶ「徒弟制度」(Apprenticeship)から、統一性のある「学力保障教育・習熟度別教育」(Competency-Based Education, Proficiency Education)への移行を進める側面もありました。以前のシステムでは、師匠となるATCや、現場実習環境の違いによって、学生への教育内容が大きく異なってしまい、資格者の均一性の維持が困難になる状況がありました。そのような教育環境を改善するため、NATAは1982年より5回に渡りATCを対象にATCに必要とされる知識、スキル、テクニック、職責を定義・描写することを目的とした自己調査(Delineation Study)を行い、それを元に6分野12領域500項目以上に及ぶリストを作成し、それらが学科・現場実習の中にどのように組み込まれるのかをガイドラインで示すように認定プログラム校に義務付けています。このガイドラインを使用することによって、プログラム内での教育内容の均一性を保つことが可能になっています。具体的には、超音波療法の項目では、学科のどの授業で教えられるのか、また実習現場においても、監督するATCの下、その理論、現場における適応テクニックなどをカバーしたか等です。

国のアスレティック・トレーニング界の進歩・発展は目まぐるしいものがあります。大きな教育制度改革が終わろうとしている現在、すでに次の教育制度改革の必要性が論じられている現状には驚きすら感じます。NATAが70年代に教育プログラムを発足させて以来、アスレティック・トレーナー教育の主役は常に大学学部にありました。しかし、学部教育の改革を一通り終えたNATAにおいて、今後は大学院の教育制度に力を入れるべきだという意見が教育分野でのカンファレンス・学会で議論されているそうです。そして、この大学院教育の方向付けは、アスレティック・トレーニングの将来を握る大きな鍵であるように感じられます。大学院にもNATA・CAAHEP認定プログラムなどがありますが、前回も述べたように大学院プログラムの質を図る尺度が、学部に比べ複雑であり、どちらかといえば、臨床の教育プログラムよりコンベンションや学会での大学の存在感を増すために研究分野での成果を発揮するプログラムが注目を浴びているのが実情です。また、大学院教育のテーマの中に、よくも悪くもアメリカにおける理学療法とアスレティック・トレーニングは競争関係にあるということがあります。アスレティック・トレーナーの活動先が、従来の競技スポーツを対象とした大学・高校から、余暇スポーツに従事する一般の人々をも含んだPTクリニック*へと広がっていくにつれ、その度合いは強まってきているようです。アスレティック・トレーナーを取り巻く職場環境の変化や、アメリカの保険制度の問題、それらと関連した形でのアスレティック・トレーニングの今後の方向性などが教育制度の問題として議論されているそうです。
*アメリカにおいては理学療法士に開業権が与えられ、整形外科系のリハビリは医師の処方に基づきそれらのクリニックで行われている

というのは、近年のアメリカの理学療法士教育制度のトレンドの一つである、教育プログラムの博士課程化(現行は、修士課程3年であったものを、学部卒業後に修士−博士一環課程の4年プログラムにするというもの)に対抗する形で、アスレティック・トレーナー養成の教育制度を学部主導から修士課程へと引き上げるという主張も、現状ではあくまで少数ですが起こっているそうです。
しかし、これらの議論は現行の教育制度の機能を評価した後の改善案として出てきたものではない上に、現在資格を取得しているアスレティック・トレーナーの多くは、自分たちの経験した学部での教育内容を高く評価していることが学術論文上で示唆されていることもあり、現実性は薄いようです。しかし、2004年をもってアスレティック・トレーニングの学部教育制度の大きな改革を終えたNATAにとって、大学院教育制度の改革は次の大きな焦点の一つであることは間違いありません。そして、その議論の中で、こういったアスレティック・トレーニング教育の修士課程移行という意見は主流派になる可能性はあるのかもしれません。

次回『カレッジスポーツを取り巻くフィロソフィー』は3月15日にUP予定

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