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T's STUDIO:FROM USA

FROM USA〜アメリカ在住トレーナーからアスレティック・トレーナー最新情報をお届けします

上松大輔 MS,ATC

新潟県出身。早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒後、1999年9月に渡米。University of Pittsburghにて学士、ATC取得。Ohio Universityにて修士号取得。
現在はBrigham Young Universityにて野球部の担当である。
※MS:大学院修士課程修了
※ATC:全米アスレティック・トレーナーズ協会認定アスレティック・トレーナー

米国のアスレティック・トレーニング教育は大学学部の制度改革の終焉を迎え、さらなる教育制度改革として大学院への教育と話題を移しつつある。ブリンガムヤング大学の上松大輔氏に大学院レベルのアスレティック・トレーニング教育について語っていただく。

Ohio University・大学院教育

メリカではNATAの公認アスレティック・トレーナーの70%は修士号を取得しています。大学学部が資格取得を目的とするスタンダード教育であるのに対し、大学院においては大きな自由度があるため、大学によって様々な特徴があり、より専門性が増した教育機会が与えられています。それらは運動生理学、キネシオロジー・バイオメカニクス、ストレングス&コンディショニングなどの学問領域を強調したプログラムがあります。私が現在働いているブリガムヤング大学では、教授陣の専門である超音波やクライオセラピーなどの物理療法に関する教育・研究に重点が置かれています。

学院教育を通じて強く意識し始めたことは、アスレティック・トレーナーとして直面する現場での判断(Clinical decision making process)において、「授業(または実習現場)でこう習ったから」という牧歌的な理由付けから「科学的検証を受けたもの・学術論文において支持されているもの」に置き換えて行く作業の重要性です。結果的にそのような作業が職業人としての個人の資質を発展させるとともに、職業自体の発展に繋がると考えています。
例えば、アスレティック・トレーナーが毎日のように使うアイシングでさえ、論文を詳しく調べていくとまだまだ未知なことばかりであることが実感されます。一般的にアイシングは20〜30分が適切な適用時間とされていますが、実際にアイシングの対象となっている組織が目標としている温度まで冷やされているのか?そもそもその目標とされるべき組織温度とは何度なのか?それぞれの関節や筋肉、使用器具(アイスバック、クライオカフetc)、または同時に行われる圧迫の有無または強さなどの要素が変わることによって組織温度の低下率は変わってしまいます、それらの条件によってアイシングの適用時間は変えられるべきではないのか?アイシング一つを取っても、我々が現場で提供しているサービスの中で選択の余地はいくらでもあります。しかし、「授業(または実習現場)でこう習ったから」という姿勢でサービスを提供しているのであれば、部位、対称としている組織、圧迫の有無に関わらず、アイスバックを30分のせて終わりになってしまう。それに対し、アイシングに留まらず、アスレティック・トレーナーが現場で提供するサービス一つ一つの選択過程の中で常に疑問を持ち、その判断のよりどころをより科学的検証を受けたものに求める姿勢を持ち続けるならば、よりよいサービスを我々アスレティック・トレーナーは提供していけることになるわけです。そういった姿勢・視点が大学院教育では強調されていたように感じました。現場にいるアスレティック・トレーナーこそが常に最新の学説・理論に目を向ける姿勢をもつ。その下で学んだ学生や、ATCが研究分野に進んだ後にそれらの臨床経験に科学的検証を試みる。そしてそれは新たな学説・理論を構成する。そういったサイクルは、アスレティック・トレーナーという職業全体のサービスの変化・向上に繋がり、ひいてはアスレティック・トレーナーという職業の発展に繋がる。大学院教育を通じてそういった意識の重要性を強く実感しました。

の卒業したオハイオ大学と現在働いているブリガムヤング大学の大学院プログラムディレクターが2人ともNATAの大学院教育に関する専門委員会のメンバーであることもあり、アスレティック・トレーニング界の大学院教育の問題点について話を伺う機会を得てきました。
資格養成を目的とする学部教育は認定校になるために詳細な条件を満たす必要があり、その教育内容の自由度は制約されている一方、「有資格者養成」という絶対的な評価軸があり、教育制度上の様々な問題点は、「よりよい有資格者養成教育プログラムにするには」という大きな評価軸を元に解決が為されてきました。そのような評価軸をして、近年のNATAはインターンシップ校を廃止するという大がかりな教育制度改革を推し進めてきました。それに対し、大学にかなりの自由度が与えられる大学院教育においては、それぞれの大学が各自の特色を持った教育を行えるという特徴があるものの、大きな評価軸がなく、教育レベルの保証やNATA認定校の認定方法などおいて問題が生じているそうです。このような現状を反映してか、大学院レベルでのNATA認定校が全米で数校に留まっています(学部レベルでの100校以上がNATA認定されている)。

スレティック・トレーナーの大学院教育は発展途上段階でありますが、私は学部における教育内容に関して大きな満足感を持つとともに、在籍学生の大半がATCという有資格者である現在のアスレティック・トレーニング界の大学院教育環境は非常にユニークなものに感じられ、是非とも維持・拡大して欲しいシステムだと考えています。20名近くのATCが、それぞれの学部での経験や学んだフィロソフィー、スキル、テクニックを持ち寄って行うディスカッションや授業は、自分の学部時代の経験を相対化する素晴らしい機会であるとともに、よりよい研究を生み出す格好の環境を提供しているように感じました。

次回『アスレティック・トレーナー教育制度の今後』は2月22日にUP予定

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